クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 深みにはまりそうになる一方で、桑名社長は私に話しかけてきたときと同様に穏やかな声で茶目っ気混じりにスピーチしていく。

「今回はとくに苦戦しましたね。照明の当たる角度やそれぞれのテーブルからの見やすさなどを考慮し、水槽の種類を変え何度も調整しました。これもすべてはいらっしゃるお客様のためです。どうか彼のこだわりを細部にまで感じてください」

 そう言って桑名社長は隣の亮の肩になにげなく手を置くと、ふっと微笑んだ。

「皆さん、私よりも若い彼の方に興味がおありでしょう。彼は株式会社ズプマリーンコーポレーションの冴木(しげる)社長の御子息(ごしそく)で次期後継者の冴木亮くん。今回の事業を中心となって進めたのは彼です」

 会場の注目が一気に亮に移る。亮はとくに動揺も見せず、涼しげな表情だ。桑名社長の調子は止まらない。

「若くて才気溢れる彼に話を聞く前に、ひとつ。ホテルオーナーの梅原(うめばら)さんにも是非にと言われましたので、お節介ながらこの席で冴木亮くんの婚約を私からお知らせします」

 唐突な話題に会場がどっと沸く。ふと桑名さんに視線を移せば、彼女は背筋を伸ばし笑顔でまっすぐに壇上を見つめている。

 まるで自分が呼ばれるのを待っているかのようだった。話を振られた亮は、まず祝辞と簡単な挨拶を口にしてから切り出した。
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