クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「俺を選べよ」

 亮のぶっきらぼうな一言が、すとんと心に落ちてくる。おかげで私はようやく彼に手を伸ばせた。

「……うん」

 差し出されていた彼の右手におずおずと左手を重ねると、ゆるやかに握られる。伝わってくる体温は思った以上に熱くて、私は半歩先を行く亮をちらりと窺う。

 もしかして、亮も緊張していたのかな?

 そっけない言い方もそのせいだったのかと思うと、少しだけ気が緩み彼の指先を軽く握り返せた。

 そして思わぬ形で壇上にエスコートされる羽目になり、私の緊張は高まる一方で、それは桑名社長に対してもあった。

 彼はこの事態をどう受け止めているんだろう。だって本当はここには彼の娘の美加さんがいるはずなのに……。

 心配して桑名社長を見れば、彼は怒った雰囲気など微塵もなく私に笑顔を向けてきた。亮から軽く紹介され、私は頭を下げる。

 慣れない状況に目眩を起こしそうになっていると、亮が庇うようにして話を続けた。

「正直言うと、私は父の仕事が嫌いでした。生き物を飼育して鑑賞するのは人間のエゴだと思い、会社の跡を継ぐのも嫌で学生のときは家の事情を周りに伏せていたほどです」

 この場に似つかわしくない亮の発言に会場がどよめく。他の関係者も目を丸くしていて、私も彼を二度見した。すると亮が私と一度目を合わせ、再び口を開く。
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