クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「ただ娘と結婚してくれれば、よりズプマリーンコーポレーションさんとの結びつきは強くなる。君の存在はそれくらいにしか考えていなかった。娘は昔から君に惚れていたし、だから娘可愛さに無理も言ったね」

 そこで桑名社長の目線が亮から私に移り、彼はまるで内緒話をするかのような語り口調になる。

「亮くんと最初にこの事業に着手するときにね、『君の(だい)になってからも、うちとやっていきたいなら、娘と結婚してくれないか』と言ったんだ」

 私は思わず亮の顔を見た。おかしそうに告げる桑名社長に対し、私は笑えない。しかし桑名社長は「でもね」と続けた。

「彼は『娘さんとの結婚に関係なく、今後も付き合っていきたいと思わせるほどの仕事をしてみせます』と答えたんだ。その通りだったね。以前の亮くんとは違う。一つ一つクライアントと来てくださるお客様のために、というのが伝わってきたよ」

 満足だと言わんばかりの桑名社長の表情は、仕事人としてのものだった。彼は上機嫌に顔を綻ばせる。

「なにより亮くんは飼育する海洋生物のことまで気を配ってね。そんな彼に触発されて、みんないい仕事ができた。うちとしても彼の難しい要望に応えようと思えたんだ」

 自分のことのように嬉しくなり、温かい気持ちになる。桑名社長みたいな人に亮が認めてもらえて、本当によかった。

「ありがとうございます。皆様のご尽力(じんりょく)があったからこそだと思っています。それに結果は今からですから」

 亮がさらりと返せば桑名社長は豪快に笑った。目を細め、自身の髭を軽く触わる。
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