クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「残念ながら僕に必要なのはあなたではなく彼女なんです。親に言われて何度かお会いしましたが、そのたびに僕の気持ちは伝えてきましたよね」

 丁寧な口調が余計に際立ち、冷たさを(はら)む声だった。

 悔しさと敵意の交じった眼差しが私を射貫く。ところが桑名さんがさらになにか言おうとする前に、桑名社長が彼女の肩に手を置いて制した。

「美加、いい加減にしなさい。最初から言っていただろ、機会もお膳立てもいくらでもしてやるが、最後に彼の気持ちが向かなければ意味がないと」

 なにかが突き刺さったかのように桑名さんは泣き出しそうな顔になると、ぐっとうつむいてその場を駆け出す。

 桑名社長は私たちに短く挨拶し、彼女の後を追っていく。

 その場に残された私たちの間には沈黙が走り、私はどこか気まずさを感じた。どうしようかと葛藤していると、亮に手を引かれる。

「上に部屋を取ったから、一緒に来てほしい。話したいことがあるって言っただろ」

「う、うん」

 この数時間だけで目まぐるしく変わる状況に私の頭はまだ追いつかない。エレベーターに乗り込み、大きく息を吐く。

 そして、改めて繋がれている手に意識を向ける。

 私、これからもこの手を離さずにいていいんだよね?

 確かめたくて少し力を込めて手を握ると、亮は一度私を見てから力強く握り返し、さらに私を自分の方へと引き寄せた。

 上昇していくエレベーターの中で私はおとなしく彼に寄りかかる。
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