クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 よかった夢じゃない。

 彼に連れられてやってきた部屋は、この前とは異なっているものの内装はよく似ていた。

 部屋からの夜景も相変わらず見惚れる美しさで、窓際に立って外を眺めていると、ミネラルウォーターのボトルとグラスを持ってきた亮がやってきた。

 その姿をきょとんとした面持ちで見つめていると、目が合った亮は意地悪く微笑む。

「汐里はオレンジジュースの方がよかったか?」

「子ども扱いはやめてよ」

 口を尖らせて返したものの自然と笑みがこぼれてしまう。

「どうした?」

「ううん。前とまったく同じだなって」

 再会したときも亮に連れられこのホテルの部屋にやってきて、ミネラルウォーターのボトルを出された。

 思えば格好まで一緒だ。ずっと前のことのようで、つい昨日の出来事にも思える。

「違うだろ」

「え?」

 懐かしがっていると、亮にあっさりと否定される。彼はグラスとボトルをテーブルの上に置き、私のすぐそばまで歩み寄ってきた。

「あのときは違う。俺たちの関係も、汐里がここにいる意味も」

 そう言うと亮は同意を求めるかのごとく、まっすぐに私を見つめてきた。

「うん。そうだね」

 私は素直に答える。たしかに以前と今とでは私の気持ちも決定的に違う。亮はそっと私の頬を撫で、なにも言わずに顔を近づけてきたので私も緩やかに瞳を閉じた。

 予想通り唇に温もりを感じ、触れるだけの口づけが幾度となく繰り返される。
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