クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 桑名さんにとっては、なんとも気の毒な話だとも思う。とはいえ私が胸を痛める資格もない。そして、様々な思惑があったとは(つゆ)知らず、私自身はまさかの当事者になってしまった。

 順を追って説明していく亮に私の疑問は少しずつ解けていく。

「亮と桑名さんの婚約発表があるって聞いていたから、一瞬なにが起こったのかわからなかったよ」

 亮は目を見張ってこちらを見た。私はわざと彼から視線をはずし、今度は自分の番だと桑名さんに招待状をもらった経緯などを責める感じにならないよう極力明るく伝える。

 ついでに五年前に亮と桑名さんの前に私が現れた裏側も。

「それで、私ね」

「汐里」

 つらつらと一方的に喋る私を亮の真剣な声色が止めた。

「彼女とは本当に何もない。婚約していた事実も」

 私はおそるおそる亮に視線を戻す。はっきりと告げた亮はまっすぐな瞳で私を見据えていた。

「学生のときは、どうしても親に逆らえずに彼女に会ったりもした。そういう事情を含めて家のことは汐里に黙っておくのが最善だと信じて疑わなかった。けれど結局、汐里を傷つけて失って、いかに自分が馬鹿で独りよがりだったか気づいたんだ」

 亮の顔が痛みに耐えているかのごとくつらそうに歪む。私も昔を思い出して胸が軋んだ。再会して付き合いだしてからも、お互いにこの話題にしっかりと向き合ってこなかったから。
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