クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 弱いところは全部把握されてしまっている。なんだかんだでこのままなにも考えずに落ちてしまいたい。

「可愛いな、汐里は」

 ところが亮が満足げに囁いたことで、恥ずかしさが先にきて私はとっさに左手で彼の肩を押した。しかし、離れるどころか逆にその手に相手の指が絡められる。

 さすがになにか言おうかとしたとき、私の視界にあるものが目に入った。

「えっ……これ……」

 亮はおもむろに捕まえている私の左手を自分の口元に持っていくと、意地悪く微笑んだ。

「ああ、今気づいた?」

 指先に軽く口づけられ、自然と自分の顔の前に自身の左手をかざす形になる。いつのまにか私の左手の薬指にはサイズぴったりの指輪がはめられていた。

 指輪の真ん中では青い宝石がきらりと輝いている。 まじまじと見つめていると、亮が私としっかりと目線を合わせてきた。

「本当は昨日渡すべきだったのに、色々と余裕がなかったから」

「び、びっくりした。いつの間に?」

「さぁ? 汐里が俺に夢中になっている間に?」

 どこまで本気なのか読めない回答に、私は羞恥で頬を染めつつ話題を切り替える。

「この青い宝石はなに? サファイア?」

「パライバトルマリン。汐里に似合うと思ったから」

 言われてみればサファイアとは少し違う。色は濃いけれど鮮やかなネオンブルーに近い。遮光カーテンの影響で薄暗い部屋の中でも十分な輝きを放っている。まるで――

「海の中みたい」

「そう言うと思った」

 そこまで彼には予想されていたらしい。あまりにも単純な発想だったかと思いながらも私は指輪を見つめる。
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