クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 大切で、かけがえなくて。大事にされているのも、十分に伝わってくる。

 意外とまめな彼はイベント事も大事にするし、卒論や修士論文でなにかと忙しいときも、私と会う時間は確保した。

 どちらかといえば亮は聞き役で、他愛ない話を投げかけるのはたいてい私の方。本を読みながらだったり、いちいち反応を示さなくても、亮は私の話を遮らずに聞いていた。

 大好きな水族館について語ったり、ゼミの人間関係や就職活動で弱音を吐いたときも、嫌な顔ひとつせず相手をしてくれた。

 付き合っていく中でどんどん彼に惹かれていく。好きという気持ちが溢れて、すぐに覚めると思った夢がなかなか覚めないのをいいことに、ずっと続けばいいと願ってしまった。

 馬鹿だったな、私。

 大きく息を吐くのと共に、苦い思いを吐き出す。もう別れてから五年近くも経つんだ。全部、過去の話だ。

 身支度を整え、バスルームを後にして部屋に戻ると、軽くシャツを羽織った亮がソファに腰掛け、新聞に目を通していた。彼の視線がこちらに向き、そんな些細な仕草にドキッとする。

「不便はなかったか?」

「むしろ十分すぎるくらい。ありがとう」

 平常心を装い、彼に歩み寄る。亮も立ち上がってこちらに近づいてきた。おそらく彼もシャワーを浴びたいのだろう。

 このタイミングで、ここを後にしようか。その考えが頭に()ぎった瞬間、亮が先に口を開く。
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