クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「対応、サンキュ」

「うん。今、準備してもらったとこ」

 亮が椅子に座ったタイミングで、彼に尋ねる。

「コーヒーと紅茶、どっちにする?」

 こればかりは自分たちのタイミングで飲めるようにとそれぞれポットが用意されていた。亮からは予想通り「コーヒー」と返事がある。

「入れるのはミルクだけ?」

「ああ」

 そのへんの嗜好は変わっていないらしい。私は自分のカップにもコーヒーを注いで席に座った。

「いただきます」

 私は小さく手を合わせる。目の前に並ぶ食事は、さすがに一流ホテル食事というべきか、どれもこだわりの強いものだった。

 焼き立ての香ばしいパンの香りに上質なバターとジャム数種類。ふわふわのオムレツにカリッと焼けたベーコン。サラダの野菜は見たことのない変わったものも入っている。 

 丁寧に味わおうとしても、緊張であまり味がわからないのが情けない。なにか話題を振るべきか、今は食べるのに集中するべきか。

 十分なほどの量があるのに、あまり喉を通らず、早々(はやばや)と食後のデザートとしてフルーツをいただきコーヒーを堪能する。

「亮は、どうしてこのホテルに泊まっていたの? 仕事って言ってたけど……」

 沈黙に耐え切れず、とりあえず自分から話しかける。亮は一瞬、こちらを見て驚いた顔を見せたがすぐに律儀に質問に回答を寄越す。

「今、ここの地下一階のレストランが改装中で、そこが今度アクアリウムを壁沿いに設置して海の中をイメージした内装でリニューアルオープンを控えているんだ。その事業に携わっている」

「そうなの!? すごい!」

 反射的に素直な感想が口から出て、思わず笑顔になる。
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