クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「やっぱり亮は……」

 ところが、言葉を続けようとしてすぐに押し黙る。なんて続けるべきなの?

 亮が水族館に関連した事業に携わる仕事をしていて嬉しかった。でもそれを口にすると嫌味に聞こえてしまいそうな気もしたから。

 亮のお父さんは誰もが名前を知っている多角的金融サービス業を展開している大きなグループ会社の役員をしていた。

 あるとき新たに会社からの任命で水族館の運営事業に携わり、大きな業績を作ったのは業界では有名な話らしい。

 事業はやがて会社を興すほどに発展し、グループ傘下のひとつとして株式会社ズプマリーンコーポレーションの社長となった亮のお父さんは、今ではいくつもの海外の水族館とも提携するほどの実力者だ。

 つまり亮はいわゆる御曹司サマというやつで、彼はお父さんの跡を継ぐのを前提に育てられてきた。次期社長とでもいうのか。

 その事実を私が知ったのは、大学四年生の三月。卒業を間近に控えてのことだった。ずっと知らずに亮と何年も付き合っていた。

 家については会社をしているとは聞いていたけれど、それ以上詳しくは教えてもらえず、私も深く食い下がってまで知ろうとしなかった。

 それがまさか、突然現れた亮の婚約者だという女性から皮肉交じりに彼の事情を聞かされるとは思ってもみなかった。

 嘘みたいな本当の話で、ドラマみたいな展開に笑ってしまう。……いや正確にはまったく笑えなかったけれど。
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