クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「別れたときのこと、本当に悪かったと思ってる」

 神妙(しんみょう)な面持ちで、核心に触れられる。心臓を直接握られたかのような衝撃だった。

「やだな、今さらどうしたの? 気にしてないってば」

 少し間が空いたものの私は極力、明るく答えた。亮の眼差しは鋭いままだ。

「本当に? 俺との別れがトラウマで今も恋愛できないって聞いたけど?」

『牧野から聞いたんだ。谷川さんって昔の恋愛がトラウマで誰とも付き合わないって本当?』

 岡元くんの発言が頭を過ぎる。やっぱりあれを聞いて、気にしていたんだ。

「あの、それは交際を断る言い訳にしただけで、トラウマとかないから。亮が責任感じる必要はないの! 誰とも付き合わなかったのは、その……」

 少しだけ言いよどんで私は言葉を探す。亮と付き合って、恋愛が怖くなったとかそういう話じゃない。私は亮をちらりと見て、白状する。

「亮以上の人が現れなかった、それだけだよ」

 観念して本音を告げる。亮の目がわずかに見開かれ、はたと気づいた。これじゃ、まるで彼に未練があるみたいに聞こえたかもしれない。

「ち、違う。仕事が忙しくて、その、機会もなくて……。とにかく私は気にしてないから、亮も余計な気を使わないで! もう過去の話はやめよう。建設的じゃないよ」

「そうだな。ならこれからの話をしよう」

 やっぱり送っていくとかそういう申し出だろうか。急に冷静な対応に思わず首を傾げると、亮は空いている方の手で私の肩を引き寄せた。
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