クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
第二章 寄せて返すは苦い過去と甘い現実
 やっぱり選択を間違えたのかもしれない。

 ゆるやかに空と街の明かりのコントラストが強くなりつつある午後六時過ぎ、私はある建物を前に呆然と立ちすくんでいた。

 歩道に備え付けられたヨーロッパ風のお洒落な電燈(でんとう)がぱっと灯ったところで我に返る。両手に抱えた荷物も重さを主張していた。

 会社の創立記念パーティーの会場となったホテルで、大学時代に付き合っていた亮と偶然の再会を果たし、さらには再び付き合うという結果になったのを、私はまだ現実として正直受け入れられていない。

 あれからこうして、彼とふたりで会うことになった今も。

 だって別れるときに、今後もう二度と亮と私の人生が交錯することなんてないと思っていた。

 心の奥底に特別な思い出としてしまって、いつか私は別の人と恋をして、その人とゆくゆくは結婚できればいいなって。

 ところが、私にとってそういった相手は現れず時だけが過ぎていった。そんな一週間前の自分からは想像もできない展開だ。

『次に会うの、汐里はいつ空いてる?』

 ホテルの部屋を出る際に尋ねられ、私は軽く目を瞬かせた。今の部署は比較的残業も少なく定時で上がれるので、その旨を伝える。

 それに、どちらかといえば亮の方が忙しいのでは。 図星だったらしく、亮はしばし自分の頭の中にあるスケジュール張をめくるそぶりを見せた。

 一応、手帳にも予定は記すが、基本的に彼の頭の中にすべて入っている。それは昔からで、忙しくなった今もそうらしい。
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