クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 目をぱちくりとさせていると、亮が顔にかかった私の髪をすくいあげ、そっと耳にかける。(あら)わになった頬に彼の指がぎこちなく滑った。

「勝手なのは重々承知だが、俺は汐里の変わっていないところにすごく救われているんだ」

 どういう意味なのか尋ねる前に、彼が不安そうに聞いてくる。

「俺とまた付き合いだして、後悔してるか?」

「してない。私、幸せだよ」

 不安はたしかにある。けれど、それは失いたくないからで、今も昔も付き合ったことを後悔はしていない。

 亮が変わらずに優しいのを実感できて、それが私の中で凝り固まっていたなにかを溶かしていく。

 私は自分から彼に身を寄せて抱きついた。

「今度、ナイトアクアリウムに行きたい」

 唐突なリクエストに、亮が目を丸くしたのが容易に想像できる。

「夏の間だけの期間限定で、とくに真っ暗な闇の中で魚を見るダークナイトコーナーがあって、それが気になっていて……」

 彼がなにかを返す前に私はインターネットでチェックした情報を早口で続ける。すると不意に耳たぶに口づけられた。

「いいよ、行こう」

 驚いて顔を上げれば亮が幸せそうに顔を(ほころ)ばせている。

「やっと汐里が自分の希望を口にしたな」

 よしよしと頭を撫でられ、頬が熱くなった。

「そんなに喜ぶこと?」

「そうだな。ずっと汐里を甘やかしたくてたまらなかったから」

 間髪を入れずに返事があったかと思えば、唇が重ねられる。
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