クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 もう今日だけで何回キスしたんだろう。彼の気持ちに応えたくなり、私は大胆にも自分から亮の唇を軽く舌先で舐めとった。

 けれど予想に反して口づけは中断される。

「人が必死で耐えてるのを、易々(やすやす)(あお)るな」

「耐えてるの?」

 怒った声色に意外そうに返せば、亮は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「汐里の体調を気遣うのと、好きな女を抱きたい気持ちは別だろ」

 ストレートな言葉に戸惑いが隠せない。反射的に亮から距離を取りそうになるのを、先に察知した彼が阻むかのごとく、私をきつく抱きしめ直した。

「余計なことを言った。いいからおとなしくここにいろ」

 力強く耳元で囁かれ、私は黙って頷く。

「……帰るって言うなよ」

 そして続けられた言葉は打って変わって弱気なものだった。やっぱり今まで泊まらずにいたの、気にしてたのかな?

「うん。そばにいたい」

 正直な思いを伝えると、額にキスが落とされる。そして至近距離で目が合った。彼の漆黒の瞳に捕まる。

「次は譲らない。絶対に逃がさないから」

 私と違って、亮はわざとあのときと同じ台詞を言ったんだ。なんだかんだで、初めて泊まると意気込んだわりに今回も前回同様の結末になってしまった。

 残念で、申し訳なくて、その一方で亮の変わらない優しさに触れて安心する。彼の温もりに包まれ私はゆるやかに目を閉じる。

 頭の痛みはいつの間にかすっかりと引いていた。
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