クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 夏休みだし混んでいるかな、と予想したけれど平日だからか水族館はあまり混雑はしていなかった。

 少し遅い時間なのもあるのかもしれない。そして、どちらかといえば外のイルミネーションを見ているカップルや家族連れが多かった。

 時刻は午後八時半過ぎ。仕事が終わって急いで帰宅した私は、決めていた小花を散らした紺色のワンピースに身を包んで化粧と髪を整え直した。

 夜だし、さらに行き先も暗いし、あまり気合いを入れすぎてもと思う一方で、これはデートだと思うとどうしても心が弾んでしまう。

 亮から連絡を受けアパートの下に降りていくと、来客者用の駐車スペースに彼は車を停めていた。

 よく見た光景につい目を細める。大学のときも遠出するときは彼はこうして車で迎えに来てくれた。

 ああ、懐かしいな。

 そこまで距離はないのに思わず手を振ると、亮は運転席から軽く手を上げて応えた。

「わざわざありがとう」

 助手席のドアを開けて彼にお礼を告げる。外の蒸し暑い空気から一転し、車内はエアコンが効いて涼しかった。帰ってくるときはまだ明るかった空も、もう暗い。

 亮は淡いブルーの襟付きのシャツにスリムなベージュパンツの組み合わせで、ネクタイをすれば仕事着にもなりそうな格好だった。
< 74 / 143 >

この作品をシェア

pagetop