クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「おかえり」

 笑顔を向けると、対照的に亮は申し訳なさそうな表情になった。

「悪い。せっかくなのに汐里をひとりにして」

「平気。じっくり見てたから」

 亮の方はどうなんだろう。大丈夫なのかな? 尋ねようとしてやめる。代わりに水槽を指差した。

「ね、見て。さっきから何度も目が合うの。私の気持ちが通じているのかな?」

「気のせいだろ」

 あっさりと返され、私は口を尖らせる。ニュウドウカジカは全身ピンク色でまるでなにかのキャラクターのような出で立ちだ。

 なかなか強烈なインパクトがある。個人的には愛くるしいと思うのに。

「あ、じゃぁ」

 今度は違う魚に注目する。再び亮に呼びかけようとすると、不意に唇に温もりを感じた。

 あまりにも一瞬の出来事で、なにが起こったのかわからない。暗い中、目を見開いたまま固まっていると、再び顔を寄せられ、今度ははっきりと口づけられた。

 次は即座に反応できた。驚きで周りを見渡せば、カップルが何組かいるがみんな水槽を見て談笑し合っている。

 なにも言えず抗議の目で亮を見れば、彼は不敵に笑っている。ああ、これにも覚えがある。
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