クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 大学時代、付き合うきっかけになった海中水族館にふたりで訪れたとき、亮が経営者へのヒアリングをしている間、私は存分に水族館を楽しんでいた。

 そして用事を終えた亮が戻ってきて、私に水族館の感想を聞いたので私は大はしゃぎでこの水族館の魅力を語った。

 それを彼がどう捉えたのかはわからない。なにを思ったのかも。水槽に視線を送っていると、なぜか前触れもなく唇が重ねられた。

 突然で、ましてや初めてだった私は当然軽くパニックに陥った。

『な、なな!?』

 周りをきょろきょろと見渡したが、幸い人の姿はなく、まずはそこに安堵する。

『あまりにも汐里が間抜けな顔をして、隙だらけで水槽を見てたから』

 悪びれもせず続けられた亮の言葉にさすがに私もムッとした。

『ひどい。もっと言い方、ありません?……っと、というより初めてだったのですが』

 怒って訴えたいのに、もごもごと小声になってしまうのはしょうがない。そういった経験がまったくないのは付き合うときにも言ったので彼も知っているはずだ。

 亮は私から水槽に目をやり、軽く息を吐いた。

『……そこまで夢中になるほど好きなんだな』

『はい、好きです』

 笑顔で答えると、亮がじっと私を見つめてきた。子どもみたいだとまたからかわれてしまうと身構えたがその素振りはない。

 なにも言わず視線を逸らさない彼に、心臓が早鐘を打ち出す。そして距離を縮める彼に、どうしてか私はごく自然に目を閉じた。
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