クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 するとさっきよりも確実に唇に彼の温もりが伝わる。

 嫌な気持ちはなかったのに照れと気まずさと、付き合いだしたとはいえなんだか気軽に手を出された気がして帰りの車の中ではほとんど会話できなかった。

 ところが、それから亮が不必要に私に触れることはなかった。

 最初のキスは強引だったくせに、結局キス以上に発展するのは付き合いだして三カ月以上も先の話になったし、本当に出来心だったんだなと思う。

 初デートの水族館で初めてのキスとは、今振り返ってみると甘酸っぱい思い出だ。

 懐かしさに浸りつつ亮に促され、私たちは手を繋いで水族館の外に出た。今日はいつもに比べると暑さは幾分か和らいでいるものの、湿度が高いからか不快指数はあまり変わらない。

 駐車場に停めてある亮の車に乗り込み、思い出の後押しもあって私は彼に尋ねた。

「私、そんな間抜けな顔してた?」

「は?」

 突拍子もない問いかけに亮は目を丸くした。私はシートベルトをしつつ答える。

「さっき、キスしてきたの。たしか初めてデートしたときそんなこと言ってなかった?」

 昔とは違い責めるふうでもなく、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。すると亮は途端にばつが悪そうな顔になる。

「あれは……」

「はいはい。隙があるのは亮の言う通りかも。少しは気をつけるね」

 謝ってほしいわけでもない。からかい文句が返ってくるかと思えば、思った以上に彼が戸惑いだすので、私はこの話題を振ったことを少しだけ後悔した。
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