クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 前回の十代の頃ならいざ知らず、私ももう大人でましてや彼と付き合うのも二回目だ。

 こうしている間にも車は確実に私のアパートに向かい、ふたりでいられる時間も残りわずかになっている。刻々とデートの終わりは見えていた、

「……また会えるようになったら、連絡くれる?」

 亮は運転するとき、とくに音楽もかけないしラジオを流したりもしない。エンジン音も静かなもので、エアコンの吹き出し口から出てくる風の音がかすかに聞こえるくらいだ。

 おかげで私の蚊の鳴くような声はしっかりと相手に届いた。

 これは、どうなんだろう。忙しい彼の負担になってしまうのかな。でも待つだけの受け身の付き合いはもうしたくない。私もできるだけ亮に会いたい 。

 無意識に胸元のシートベルトをぎゅっと掴む。すると彼からの返事の前に車が停まった。

 行きと道が違っていたから気づくのが一瞬遅れてしまったが、気づけば私のアパートの前だった、

 亮はシートベルトをはずし、おもむろに私に向き直った。

「今度の土曜の夜、時間を作って欲しいんだ」

「でも土曜日は……」

 ホテルでのプレオープンがあるという話だったはず。私の言いたいことを汲んだ亮が先を続ける。

「終わった後で午後九時は過ぎるかもしれないが……」

「そんなすぐ後!?」

 拒否というより驚きで声をあげる。私から言い出したとはいえ、どう考えても亮は疲れているだろうし。しかし亮の表情は揺るぎない。
< 83 / 143 >

この作品をシェア

pagetop