クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
『あの、なんのご用でしょうか?』

 とはいえ自分から振ることもない。あくまでもしらばくれる私に、彼女は端的な回答を寄越す。

『貴女をご招待しようと思いまして』

「え?」

『この土曜日、『グローサーケーニヒ』のレストランでオープニングレセプションパーティーがあるんです。それに是非、谷川さんにもいらしてほしくて」

 彼女の意図が読めない。混乱する私をよそに桑名さんは続ける。

『その日、私と亮さんの婚約発表も行う予定なんです。彼の晴れ舞台なのと、レストランのコンセプトである“大切な人と訪れる場所”としてもぴったりの演出だと思いまして』

 後頭部をなにかで強く殴られたような衝撃を受けた。呼吸も、瞬きも、心臓さえ止まる。

『五年前、本当は押し切って結婚してもよかったんですけれど、亮さんがお父さまの跡を継ぐために、経営者としても人間としても成長するべく留学されると言いだしたものですから。私たちの話は一度、保留になったんです」

 クワナ工業株式会社は水槽パネル事業にも積極的に力を入れ、水族館事業を営む株式会社ズプマリーンコーポレーションとはビジネスパートナーとして切っても切れない間柄らしい。

 おまけに彼女の父親と亮の父親が昔からの知り合いなのもあり懇意にしているとも聞いていた。
< 87 / 143 >

この作品をシェア

pagetop