クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
『今度のレストラン事業に、当然うちの会社も関わっているんですが、亮さんを責任者としてバックアップする分、前々から言っていた私との結婚話を進めていただくよう父に話してありますので」

 彼女の涼しげな声色が悪寒(おかん)をもたらし、いつの間にか頭痛まで起きていた。

 頭が痛い。なにか言わないと、と思うのに言葉が出てこない。状況が飲み込めない。

 桑名さんは桑名さんで招待状を送りますね、と話を勝手に進めている。

「あの、私は」

『前にも言いましたよね。私の方が彼を理解できるし、支えてあげられるんです。仕事面でも、プライベートでもね』

 ぴしゃりと力強く言い切られ、電話は切れた。一方的なのにも程がある。でも前回もそうだった。電話が切れた後も、私はしばらく呆然と画面から目が離せずにいた。

 なにが起こっているの? 彼女の言ってきた内容は本当の話なの? 亮は……。

 気づけば亮の連絡先を表示し、電話をかけそうになる。しかし一歩手前で我に返り、どうにか思い留まった。

 頭を切り替え、のろのろとベッドからキッチンに移動した私は頭痛薬を口にする。再びベッドに戻ってくると、勢いよく倒れ込み今度は枕に頭を突っ伏した。

 本当に五年前とことごとく同じ状況が巡ってくるなんて……。

 痛みと共にありありと蘇ってくる記憶を抑え込みたくて、私はしかめっ面のまま無理矢理目を閉じた。
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