クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
※ ※ ※

 大学の卒業式を控えた三月上旬。四月から就職が控えているものの引っ越しの予定もなく私は他の学生よりも比較的のんびり過ごしていた。

「ごめん、汐里。今度の日曜日、都合が悪くなった」

「えっ!」

 そんな折、突然の亮の申し出に私はつい顔にも声にも素直に不満を表した。久々に彼のマンションを訪れて、ほぼ開口一番に聞かされた台詞だったから。

 亮は難なく修士論文の提出と口頭試問をクリアしたうえで、なかなか忙しそうにしている。

 今日もあまり時間は取れないと最初から言われていた。それでもお互いに卒業を控え、少しでも時間を作って会いたかった。

 この日曜日は一緒に過ごすと前々から約束をしていたのに。

「埋め合わせは必ずする」

「……ちなみに、どんな用事なの?」

 これくらい聞いてもばちは当たらないはずだ。私が先約だったのは間違いないわけだし。すると彼は苦々しい顔になる。

「ちょっと家の用事で……」

 微妙に言葉を濁され、私は肩をすくめる。亮は大学院の修士課程を終えたら、実家の会社を継ぐためそちらに就職すると聞いている。

 何回か亮の家はどんな会社をしているのかと尋ねたけれど、『エンターテイメント事業をメインにしている』と曖昧な返答しかもらえていない。
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