クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 彼女にも言えない会社? もしかしてなにか社会的にまずいような……?と勘繰れば、そこは断じて違うと力強く返される。

 知りたい気持ちの一方で、彼女とはいえ他人の実家の事情をあれこれ聞くのも悪いかなと思って、私も無理矢理聞き出す真似はしていない。

 もしもいつか彼と結婚するってなれば教えてくれるのかな?

 お互い学生だし、ふたりの間に結婚という単語が出たことはない。でも別れる気も雰囲気もない。

 卒業を機に別れたり、遠距離恋愛になったりするカップルもたくさんいる中で、『お互い社会人になって忙しくなっても会う時間は作ろう』と亮から言ってくれて嬉しかった。

 自分の中で納得し、亮に笑顔を向ける。

「いいよ。就職先からの呼び出しなんて珍しくないしね。でも卒業するまでに一度でいいから会う機会を作ってよね」

「わかった。約束する」

 安堵の色を浮かべる亮に、自分の対応は間違っていないと確信する。名残惜しくなりつつも私は重い腰を上げた。

「じゃぁ、そろそろ行くね」

「ああ。本当に悪い」

 見送ろうと後に続く亮の声には罪悪感と疲れが交じっていて、私は思わず振り返った。

「亮、ちゃんと休んでる? なんだか元気ないし、大丈夫?」

 私の指摘に亮は目を見開いた。私は勢いのまま彼に申し出る。

「なにか悩みがあるなら……愚痴を聞くだけでもするよ」
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