PTSDユートピア
それから数日が過ぎた。

やることのない僕は漫然とユートピアートをいじっていたが、段々と飽きてきた。

一方、『N』の方は早速生歌を投稿したらしく、聞いてくれる人もいないのにどこか嬉しそうな様子だった。

ユートピアートに価値を見出せない僕と、価値を生み出す『N』。

少しずつ二人の間にも温度差が出てきて、夜の定期連絡の会話も弾まなくなった。

そして金曜日の夜。明日は病院に行く日だ。

ケニー先生に真実を告げられてから丁度一週間が経つ日。

彼は言った。一週間で何も得ることが出来なければ、私を殺して構わないと。

ゾクッ、と一瞬ドス黒い破壊衝動が右手を走った。

僕の中には依然として『彼』がいるのを感じる。

僕を乗っ取ろうとしないのは、僕がまだ生きる為の答えを見つけ出していないからだ。

なら、もし僕が死のうとしたら『彼』は邪魔するのだろうか?

もしくは、もし生きる意味を見出したら『彼』は僕を支配しようとするのだろうか?

明日ケニー先生に会ったら――僕は先生を殺すのだろうか。

分からないことだらけで頭がおかしくなりそうだった。

いっそのこと、僕の中の『彼』に全てを委ねてしまいたいとすら思う。

衝動のままに全てを壊して、全てを殺して、僕も殺してもらえるならそれで――

ピコンッ。

その時、僕のスマホが鳴った。

いつの間にか十時になっていたのか……気怠い体を起こして、僕はスマホを手に取る。


『こんばんは。突然ですみませんがユウキさんにお話があります』


『N』と違って僕は最初から下の名前を公開していたが、それでもユウキと呼ばれるのは初めてだった。


『なんですか?』


『ユウキさんは明日病院はありますか』


『ええ、一応』


すると、返信が一度ぱったりと止まった。

要件はまとまっているはずなのに、まるで必死に勇気を振り絞っているかのような。

そんな長い沈黙の後、どこの誰かからも分からない精一杯の一言が僕の目に飛び込んできた。



『では明日――良かったら病院で会いませんか』
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