PTSDユートピア
病室の白いテーブルを挟んで、僕は冬峰さんと話をした。

年齢は僕と同じ十四歳と判明したのもあって、僕らは敬語を使うのをやめた。

まず彼女が、自身に刻み込まれた闇を語った。

彼女の場合は最初から僕より惨めな境遇だった。

目が見えないのはとうの昔に受け入れていた。が、中学に入り同級生が多感になるつれ露骨に彼女をいじめる者が現れ始めた。

抵抗する手段を持たない彼女へのいじめは更にエスカレートした。

男子女子問わず暴力を振るわれ、見えない暗闇の向こうから罵声を浴びせられ、彼女は心身共に病んでいった。

耐えられなくなった彼女は精神科を受診した。

その病院では彼女を『特例精神疾患』と称し、別の病院……そう、僕が通っているこの病院のとある精神科医へ紹介した。

それがケニー先生だった。

「ケニー先生は最初、私にとても優しく接してくれた。そうやって私との心の距離を縮め、そしてある日悪魔の囁きをした」

「悪魔の囁き?」

「自分は私を直接守ってやることはできない。でも、戦う術を与えることはできる、と……そう言って私にスタンガンを渡したの」



そう語る彼女の顔を震えていた。

「一度抵抗の意思を見せればいじめは終わる……私はもうそんな先生の言葉に縋るしかなかった。だから私はいじめられている最中、咄嗟に一人の生徒にそれを使った。そして……そして……」

「そして?」



「その生徒は死にました」



何と言ってあげればいいのか分からなかった。

「やっぱり冬峰さんも……ケニー先生に騙されたのか」

「ええ。意図的に改造されたスタンガンの高圧電流で彼は死に……しかしそれは事故死として扱われた。相手は元々体が弱かっただけであり、そして私の行動は正当防衛に値する、と」

「僕の時と同じだ。裏で働いている見えない力によって社会的制裁は免除され、ただ心の傷だけを植え付けられる。ケニー先生はきっとその見えない力を利用しているんだ」



それから僕も自分の身に起こった『闇』を話した。

お互いの身の上を語り終えた後、僕はふと疑問を覚えた。



「でも、冬峰さんの場合は大切な仲間をたくさん殺したわけじゃなくて、自分をいじめた相手一人を殺してしまっただけだよね? そのせいでそこまで自分を責める必要はないんじゃ……?」
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