PTSDユートピア
掠れる声でその名を呼ぶと、綾瀬成美は中学生の頃と変わらない陽だまりの様な笑顔を浮かべた。
「やっと気づいてくれた――勇樹」
「なんで……どうして……だってその髪……!」
「え? ああ、いわゆる高校デビューだよ。私中学の頃結構地味だったから。……そっか、それでその奈波さんって人と勘違いしたんだね」
情報量が多すぎて、頭が付いてこれなかった。
だが少なくとも目の前にいるのが奈波じゃなくて、あの綾瀬成美だということは本能的に理解出来た。
一年半も共に学園生活を過ごした相手だ。間違えるはずがない。
「だったらどうして僕から逃げたんだ……そ、そもそも綾瀬はあの時僕が殺したはずだ!」
僕が根本的な疑問を叫ぶと、
「そう、私は勇樹に『殺されたことになっているはず』だからだよ」
綾瀬はそれが何でもないことの様に解説する。
「だから私は勇樹と会ってはいけなかった。呼びかけられて咄嗟に勇樹と直感して逃げ出したのはそういう理由。でも途中で意味がないことを悟ったからここで待ってたわけ。何しろ同じ高校になった以上逃げ場はないからね」
「じゃあ、高校が一緒なのは偶然で綾瀬は今でも元気に生きていて――」
そして、僕はハッと目を見開く。
「なら、秋人は? 神崎さんは? 僕が殺したことになっている他の二人は⁉」
「……生きてるよ。学校はここじゃないし連絡も一切取ってないけど、それぞれ私たちと同じように新しい生活を始めようとしているんじゃないかな」
「そうか……そうなんだ……」
良かった、と言おうとしたけどそんな言葉しか出てこなかった。
これが事件直後なら喜びのあまり咽び泣いただろう。
でも、あの事件からもう一年以上が経っている。
加えて僕は自分の生き方を見つけ、僕なりの方法で罪を償い続けてきたつもりだった。
清算できた、だなんてとても言えないけど少なくとも心の整理は済んでいた。
それなのに今更それが全部嘘だったなんて。
それも殺したはずの本人の一人が目の前に現れて、おまけに見た目は自分の想い人とそっくりの姿をしていて――
混乱で頭がどうにかなりそうだった。
そんな僕を見て、綾瀬は昔とは違う遠い目で僕を見て静かに告げた。
「やっぱり説明が必要だよね? 組織に口止めされているけど、こうなった以上は私も隠し通したいとは思わないし」
「……説明して欲しい」
「分かった。まずは私が勇樹と『友達になるよう依頼された』ところからだね」
「やっと気づいてくれた――勇樹」
「なんで……どうして……だってその髪……!」
「え? ああ、いわゆる高校デビューだよ。私中学の頃結構地味だったから。……そっか、それでその奈波さんって人と勘違いしたんだね」
情報量が多すぎて、頭が付いてこれなかった。
だが少なくとも目の前にいるのが奈波じゃなくて、あの綾瀬成美だということは本能的に理解出来た。
一年半も共に学園生活を過ごした相手だ。間違えるはずがない。
「だったらどうして僕から逃げたんだ……そ、そもそも綾瀬はあの時僕が殺したはずだ!」
僕が根本的な疑問を叫ぶと、
「そう、私は勇樹に『殺されたことになっているはず』だからだよ」
綾瀬はそれが何でもないことの様に解説する。
「だから私は勇樹と会ってはいけなかった。呼びかけられて咄嗟に勇樹と直感して逃げ出したのはそういう理由。でも途中で意味がないことを悟ったからここで待ってたわけ。何しろ同じ高校になった以上逃げ場はないからね」
「じゃあ、高校が一緒なのは偶然で綾瀬は今でも元気に生きていて――」
そして、僕はハッと目を見開く。
「なら、秋人は? 神崎さんは? 僕が殺したことになっている他の二人は⁉」
「……生きてるよ。学校はここじゃないし連絡も一切取ってないけど、それぞれ私たちと同じように新しい生活を始めようとしているんじゃないかな」
「そうか……そうなんだ……」
良かった、と言おうとしたけどそんな言葉しか出てこなかった。
これが事件直後なら喜びのあまり咽び泣いただろう。
でも、あの事件からもう一年以上が経っている。
加えて僕は自分の生き方を見つけ、僕なりの方法で罪を償い続けてきたつもりだった。
清算できた、だなんてとても言えないけど少なくとも心の整理は済んでいた。
それなのに今更それが全部嘘だったなんて。
それも殺したはずの本人の一人が目の前に現れて、おまけに見た目は自分の想い人とそっくりの姿をしていて――
混乱で頭がどうにかなりそうだった。
そんな僕を見て、綾瀬は昔とは違う遠い目で僕を見て静かに告げた。
「やっぱり説明が必要だよね? 組織に口止めされているけど、こうなった以上は私も隠し通したいとは思わないし」
「……説明して欲しい」
「分かった。まずは私が勇樹と『友達になるよう依頼された』ところからだね」