PTSDユートピア
「い、依頼された……?」

そんな衝撃の事実も序章とばかりに、綾瀬は空を見上げて訥々と語る。

「私の家はね、父さんの会社が破産して多額の借金があった。それが丁度中学に入る直前の頃。そんな明日の生活すら危うい中、父さんに一通のメールが届いた。『お前の娘を我々の指示通りに行動させるなら、毎月三百万円の報酬を支払う』って」



綾瀬はここで初めて、後ろめたそうな横顔を見せた。

「指示の内容は私がこれから進学する中学校である生徒と友人関係を築き、二年生の秋になるまで関係を持続させること。最後の任務を完遂した暁には三千万円の報酬も約束された。毎月の支払いと合わせれば借金を返すには充分な額。両親に頭を下げられた私はもう断る選択肢はなかった」

「それで綾瀬は僕の友達を……いや、友達のフリを一年半以上も続けていたの……?」

「私だけじゃない――秋人と神崎さんも同じ事情で勇樹に近づいた者同士よ。何らかの事情で金銭的に困窮している生徒が、謎のメールの指示によって雨宮勇樹の友達の役を一年半も演じさせられた。これが嘘偽りのない真実」

「そんな……秋人も、神崎さんまで僕を騙してたって言うのか……!」



震える僕の声に、綾瀬は淡々と答える。

「そうよ。最終的にどう思っていたかまでは分からないけど、全員が必死にお金目的に勇樹に近づいた。全てはとある計画の下準備の為に」

「とある計画?」

「さっき言ったよね。『最後の任務』を完遂した暁には三千万円の報酬が約束されたって」



綾瀬は気まずそうに目を逸らし、同時に僕は真相に辿り着く。

「まさか……あの事件は……?」

「そう。あのテロリストによる襲撃は意図的に仕組まれたもの」



綾瀬は勇気を振り絞る様に顔を上げ、はっきりと告げた。



「全ては――私たち三人の力で、雨宮勇樹を完全に壊す為に」
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