PTSDユートピア
それ以来、僕は一旦休止していた執筆活動を再開しこうして小説を書き続けている。

僕の人生を狂わせた相手の為に寝る間も惜しんで書くなんて……本当に、バカげた話だ。

綾瀬はあれからもずっと銀髪のセミロングの髪型を変えていない。

何度か僕が奈波を思い出すからやめてくれと頼んだが、その度に綾瀬は澄ました顔でこう返した。

「私は奈波さんの代わりに勇樹を支えるって決めたの。だからこの髪型は変えない」

「綾瀬は酷い音痴だしデリカシーもないし、見た目以外は奈波と何一つ似てないぞ」

「う、うるさいわね! そういう話じゃないでしょ! そ、それに……そんなに大切な人だったなら、いくら辛くても忘れるべきじゃないって私は思うの」



それはきっと綾瀬の本心で……そして綾瀬なりの気遣いなのだと思う。

今書いているのは、今週中に書き上げる予定の新作小説だ。

綾瀬の好きなジャンルということもあり、この瞬間も完成を今か今かと待ち望んでいる。

僕はもう一息という所まで書き終えると、大きく伸びをしてから雪が舞い散る夜の帳を窓から見下ろした。

あれからもユートピアートの人口はどんどん増え続けている。僕が信用出来ると感じた活動者友達数十人に、招待権限を分けてあげた為だ。

しかも来年には、招待制ではなく誰でも自由にアカウントが作れるようになることを運営が発表した。

これからますます忙しくなる。綾瀬の為だけではなく、より大勢の為に筆を執らなくてならない時が来る。



「少し……散歩でもしてくるか」
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