PTSDユートピア
AM・9:00
ここに閉じ込められてからとうとう二十四時間が経過した。
普段は予備の薬を常に鞄に入れているが、持ち物はテロリストに四人まとめて没収されてしまった。
外は相変わらず不気味なほど静まり返っている。
まるで僕たちを残して世界が丸ごと消滅してしまったかのように。
――そろそろ薬の効果が切れる。
僕は他の三人の寝顔を見つめて、必死に頭を振った。
明け方になってようやく秋人たちは眠りに落ちたが、僕だけは一睡もしなかった。
出来るわけがない。
もし寝ている間に効き目が切れたら、僕は――
「……勇樹?」
その時、綾瀬が瞼を擦りながら上半身を起こし、寝ぼけた声で呼びかけた。
「どうしたの? もしかして誰か来たの?」
「ううん、違う……何でもない。何でもないんだ」
「だったらどうして」
寝てないの、という返答を予想して僕の脳裏は、次の綾瀬の言葉で弾け飛んだ。
「……どうしてそんな怖い目をしているの?」
怖い、目。
一瞬その言葉に抗おうとしたけど、彼女の穏やかな顔を見ているとそんな気力も失せてしまっていた。
「綾瀬は……僕のことが怖い?」
別の何かが、僕の口を借りて問いかける。
「怖いわけないよ。勇樹は勇樹だもん」
「綾瀬は……僕のことが好き?」
別の何かが、僕の手を綾瀬に向かって差し伸べる。
「好きに決まってるじゃん。こんな状況でもこれから先も、ずっとそれは変わらないよ」
綾瀬の真っすぐな瞳が、僕の瞳を真っ黒に染め上げていく。
僕が差し出した手を、何の躊躇いもなく、何の疑いもなく握ってくる。
もう――限界だ。
気が付けば、俺は綾瀬の肩を掴んで床に押し倒していた。
「痛いっ! ど、どうしたの勇樹⁉」
突然のことに怯える綾瀬に、俺は低い声で囁いた。
「痛くなんかないよね? だって、綾瀬は僕のことが好きなんだから」
「好きって……そういうことじゃ……!」
「綾瀬は僕のことを受け入れてくれる。そうだろ?」
俺は四つん這いのまま綾瀬の耳元に口を近づける。
「綾瀬は昨日の朝……宿題のお礼に何でもしてくれるって言ったよね?」
「⁉ やめて、放して!」
ようやく身の危険を感じたのか、綾瀬は俺の下で精一杯もがき始める。
「どうしたの? 僕のことが好きなら何でも出来るよね? それともあれは嘘だったの? 綾瀬は僕を裏切るの?」
「イヤ……やめて……」
綾瀬の啜り泣きと、俺の悪魔の様な笑い声が響くと同時に、
「勇樹イィッ!」
ここに閉じ込められてからとうとう二十四時間が経過した。
普段は予備の薬を常に鞄に入れているが、持ち物はテロリストに四人まとめて没収されてしまった。
外は相変わらず不気味なほど静まり返っている。
まるで僕たちを残して世界が丸ごと消滅してしまったかのように。
――そろそろ薬の効果が切れる。
僕は他の三人の寝顔を見つめて、必死に頭を振った。
明け方になってようやく秋人たちは眠りに落ちたが、僕だけは一睡もしなかった。
出来るわけがない。
もし寝ている間に効き目が切れたら、僕は――
「……勇樹?」
その時、綾瀬が瞼を擦りながら上半身を起こし、寝ぼけた声で呼びかけた。
「どうしたの? もしかして誰か来たの?」
「ううん、違う……何でもない。何でもないんだ」
「だったらどうして」
寝てないの、という返答を予想して僕の脳裏は、次の綾瀬の言葉で弾け飛んだ。
「……どうしてそんな怖い目をしているの?」
怖い、目。
一瞬その言葉に抗おうとしたけど、彼女の穏やかな顔を見ているとそんな気力も失せてしまっていた。
「綾瀬は……僕のことが怖い?」
別の何かが、僕の口を借りて問いかける。
「怖いわけないよ。勇樹は勇樹だもん」
「綾瀬は……僕のことが好き?」
別の何かが、僕の手を綾瀬に向かって差し伸べる。
「好きに決まってるじゃん。こんな状況でもこれから先も、ずっとそれは変わらないよ」
綾瀬の真っすぐな瞳が、僕の瞳を真っ黒に染め上げていく。
僕が差し出した手を、何の躊躇いもなく、何の疑いもなく握ってくる。
もう――限界だ。
気が付けば、俺は綾瀬の肩を掴んで床に押し倒していた。
「痛いっ! ど、どうしたの勇樹⁉」
突然のことに怯える綾瀬に、俺は低い声で囁いた。
「痛くなんかないよね? だって、綾瀬は僕のことが好きなんだから」
「好きって……そういうことじゃ……!」
「綾瀬は僕のことを受け入れてくれる。そうだろ?」
俺は四つん這いのまま綾瀬の耳元に口を近づける。
「綾瀬は昨日の朝……宿題のお礼に何でもしてくれるって言ったよね?」
「⁉ やめて、放して!」
ようやく身の危険を感じたのか、綾瀬は俺の下で精一杯もがき始める。
「どうしたの? 僕のことが好きなら何でも出来るよね? それともあれは嘘だったの? 綾瀬は僕を裏切るの?」
「イヤ……やめて……」
綾瀬の啜り泣きと、俺の悪魔の様な笑い声が響くと同時に、
「勇樹イィッ!」