幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 昔からこの男はそうだった。何かあった時は、ただ近くにいてくれた。
 …いてくれた? いや、ちがう。健一郎がいたいから、勝手に私のそばにいただけだ。決して私がそれを望んでいたわけではない。

(いつだって、健一郎がしたいようにしているだけだ)

 私は目が覚めると、パジャマのまま、玄関の扉を開く。
 そこには、健一郎が座っていた。昨日の夜のままの姿で。

 その姿を見て、ほっとしている自分がいるような……やっぱりいないような……。

「……おはよ」

 私が健一郎に言うと、健一郎は嬉しそうに目を輝かせて、

「おはようございます!」

と笑った。しっぽまで見えたのは気のせいか。
 そして健一郎はその場を立ち上がると、何事もなかったかのように、「あ、今日は朝から打ち合わせがあるので、もう行きます。三波さん、一緒に行きますか?」と言う。

「もう大丈夫。ありがとう」

 私が小さくお礼を言うと、健一郎は、また目を輝かせて、

「い!今の、もう一回!」

と叫ぶ。やっぱり健一郎の後ろにブルンブルンと振られているしっぽがが見えた気がした。

(犬か!)

 一晩こんなところで寝て、普通の人間なら大変だろうに、本当に心から嬉しそうにしっぽを振ってくる健一郎を見ると無性に腹が立って、ぷい、と横を向く。

「も、もう言わないわよ! 健一郎が勝手にしたことでしょう」
「えぇ!」
「とにかく、さっさと大学に行きなさいよ!」

 どうも健一郎と話していると調子が狂う。
 感謝したいけど、健一郎を前にすると、やっぱりイライラする。

 私は昔から父に対して反抗期がなかったらしいが、健一郎に対しては、ずっと反抗期があるようなものだ。ただ、健一郎はいくらイライラをぶつけても喜ぶだけなのだが。それも腑に落ちない。

 健一郎がしぶしぶ大学に行く後姿を見ながら、

「少しは見直したのに……ほんとバカ」
とつぶやいた。


 だって健一郎は、本当にバカだ。私はこれから誰かとお見合いして結婚する。そうなると健一郎とは離れることになる。
 なのに、そんな相手をいつまでこうやってストーカーするつもりなのだろう。私が他のお医者様と結婚したら健一郎、どうするの? まさか結婚後もストーカーを続けるわけじゃないわよね……。

 そう思って、さすがにそれはないだろう、と言い切れない自分の思考に、思わずため息をついた。
< 10 / 227 >

この作品をシェア

pagetop