幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

（不運って……）

　その言葉にさらに胸を掴まれた気がした。むっとして、森下先生が口をはさんだ。

「桐本先生、それはちょっと失礼では……」

　私はカバンを掴み席を立つ。
「わ、私もう帰ります」
「三波ちゃん一緒に出る」

　私がお金を置いて出ようとしたその時、桐本先生がクスリと笑い、
「明日、健一郎と飲みに行く約束してるの。いいわよね？　奥さま」
と言った。

「……それは友人なんですからご勝手に」
　なんとか言って、くるりと踵を返す。

　店から出た時、森下先生は本当に申し訳なさそうに、私に頭を下げた。
「ごめんね、変なことに付き合わせて」
「いいえ。森下先生のせいじゃないし……」
「やっぱりショックよね……」
「別にショックなんかじゃないです。過去があるのは、当たり前のことだし……」

　私が言うと、森下先生は苦笑する。森下先生と別れてから、私はゆっくり家に帰っていた。

（別にショックでもなんでもない。私たちはただの政略結婚だし、消去法だし、健一郎に過去に付き合った女性がいるのだって当たり前のことだ）