幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
健一郎の動きがふと止まって耳元で囁いた。
「今日は、おとなしいんですね。それじゃ、こんなことされても、いいといっているようなものですよ」
その言葉に私はなぜか泣きそうになりながら、
「健一郎は……桐本先生やほかの人とこんなこと、した?」
と健一郎の眼を見る。
私も色々な感情が止まらなくなっていた。
(ちょっと待って。私、何を言い出した!)
自分の言いだしたことが信じられない。でも、言葉は堰を切った水のように止まることは無かった。
だって気になってた。自分の中で誤魔化していたがずっと気になってた。
健一郎がこういう事をするたびになぜか慣れているように思えて、そのたびに、桐本先生やほかの女性がちらついては胸が痛くなる。
「健一郎は……付き合ってたんでしょ。桐本先生と」
「……付き合ってたというか」
「キスだって、それ以上だって、したんでしょう」
「それは……」
健一郎の動きが止まる。そのことが、答えは「YES」だといっているようで、心がズキンと痛んだ。
「健一郎はそんな風にかかわった人が私以外にもいるんだよね。当たり前のことだよね。わかってたんだけど。それも分かった上で……私は……」
「三波さん」
健一郎が、そっと私の肩を持ち、私をまっすぐ見る。
「あなたに恋する前の僕はどうしようもなくて……正直に言うと、愛もなくこういうことをしたことがあります」
意味が分からなくて、でも、健一郎の話をちゃんと受け止めたくて、私は健一郎の言葉一つ一つを大事に聞く。
「それはかなり前のこと?」
「あなたを好きになる前の話です。10年ほど前ですね。今思えば桐本先生にもとても失礼な話で……僕はそんなことを感じて、彼女には今もあまり強く出られないんです」
健一郎は今、あまり話したくなかった話を私にしているんだと思った。10年経っても健一郎は後ろめたく思ってて、たぶん私にはそういう面は知られたくなかったのだろう。
「でもきっと隠しているままじゃ、桐本先生にも、なにより三波さんにも失礼ですよね。僕はそれを知った上でも、三波さんにこちらを向いて欲しいと自分勝手に思ってるんです」
健一郎から語られるその言葉に、目頭が熱くなる。
私の知らない健一郎がいて、ショックは受けるけど、それも不思議と知っておきたい自分がいることに気づいた。