幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
森下先生は私の顔を見ると、
「それってさ、自然なことなんじゃない? ちゃんと好きになったってことよ」
と安心したように言う。
「でも、あの健一郎ですよ。昔の私が聞いたら、間違いなく今の私を病院に連れて行く。すごく、鮮明に想像つくんです!」
「なにか難しいこと、考えてるのねぇ」
森下先生は一つため息をついた。「思ってたけど、三波ちゃんって、結構いつも自然体じゃない。なのに、こと恋愛に関しては急に身構えるのはなんで?」
(それは私に恋愛経験が乏しいからですよー……好きになったのは、今まで真壁くんくらいだし。誰かと付き合ったこともないし……)
ましてや、キスとか、それ以上のことなんて。
そう思ってまた昨日の出来事に行きついて顔を赤くする。
健一郎とあんなことするなんて。
しかも、よく考えてみたら、あれ、私から言い出したよね。
私ってなんて破廉恥な女だ。
(あぁ、もう嫌だ……)
生まれたひなが、はじめて見た相手を母だと認識しているようにはじめてそういうことをした人を、好きだと思っているだけだったりして。
そう思ってみたけど、結局好きだと思っていることには変わりないことに行き当たり、その想像をかき捨てた。
「大丈夫。佐伯先生に素直になればいいのよ。夫婦でしょ? ただそれだけ」
森下先生がそう言って
私は、幼い日の自分が健一郎に体当たりで愛情を表現していた昔の夢のことを思い出す。
私は健一郎が好きだった。
お嫁さんにしたいくらいに。
―――そうか。
健一郎のこと、好きだと思っていた自分のこともふくめて今の自分はそのことを嫌だと思っていない。
それをまっすぐ伝えても、健一郎は当たり前に受け入れてくれる。健一郎は、とかく、そういう人だ。
おかしな話だが、私はそのときはじめて、私と健一郎の間にできた『夫婦の形』を一つ見つけた気がしていた。