幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
顔は赤くなっていないだろうか、と気になったところで、通りがかった真壁くんを見つけた森下先生は、
「真壁先生―!」
と叫ぶ。一瞬、いろいろな先生や患者さんの顔がこちらを向いた。
しかし、そんなことを気にもせず、「お昼一緒に食べる?」と森下先生は続けた。
ちょうど混雑のせいで席もなかったらしく、真壁くんは、「おじゃまします」と私の斜め前の席に座ったのだった。
真壁くんとは、学会が終わって以来、あまり顔を合わせて話をすることがなくなっていた。久しぶりに元気そうな顔を見られてほっとした。
「そろそろ科を決めるんでしょ」
森下先生が真壁くんに聞く。専門科を決める時期でもあるのだ。
「消化器か循環器にしようと思ってるんです」
真壁くんが言う。
(健一郎のとこか、うち? 健一郎のほうに行ったら苦労しそう……)
森下先生は嬉しそうに笑うと、
「えぇ、うちにおいでよ!」
「ありがとうございます。希望が通るかわかりませんが、まだ少し悩んでみます」
そう言った後私の方を向く。「ところで、三波。今日早めに帰れよ」
「え? なんで……?」
私はその真壁くんの言葉に眉を寄せた。
「三波さ、高校の時から、熱が出る前そんな目してる」
「え、そ、そう?」
私は戸惑った。そんな本人でも知らないことを、真壁くんはなぜ知っているのか。
それを聞いた森下先生は、
「うーん、そうなの? 私にはよくわからなかったなぁ。ちょっとショック」
と言いながら私のおでこを触る。そして、あーん、と言った。
私は言われるがままに口を開ける。
「うん、確かにちょっと危ない感じね……。本橋教授には私からも言っておくから、今日は早く帰りなさい」
森下先生は言った。
体調は万全でもないけど、それは健一郎のこともあるからなんともいえない。
そう思いながらも、森下先生たちが言う事なので定時でまっすぐ家に帰ることにした。