幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
3章:結婚後はじめての朝の風景

 小さな電子音がかすかに耳に届く。
 今すごくいいとこで……これから水戸黄門様が出てきて、ストーカー行為をしていた健一郎を成敗する楽しい夢の途中なのだ。この夢はなんとしても最後まで見たい。見なければ今日一日が乗り切れない。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、小さな電子音は鳴りやまない。

(あぁ、うるさい……。目が覚めちゃうじゃんか……)

 私が目を開けると、目の前にスマホと健一郎が交互に見えた。
 スマホ……? いや、健一郎!?

 私はがばっと起き上がって思わず周りを見渡した。ここ、私の部屋。
 健一郎は手を出さない約束をした。つまり、私の部屋に朝から健一郎がいるはずない!

「なんで健一郎がここに! 黄門様が成敗してくれたのでは⁉」

 私が夢と現実を混同していると、健一郎は悪びれる様子もなく、

「おはようございます」
と私の目の前で笑った。

(なにが『おはようございます』だ!)

 私のとっさの判断力は素晴らしいもので、すぐに枕元にあったあの配色がとげとげしい防犯ブザーを鳴らす。
 『ビビビビビビビ!』という非常に大きな音が一瞬したものの、すぐにそれは健一郎に取り上げられ、ブザー音を止められてしまった。

 私自身が卒倒しそうなほど大きな音だったのに、目の前の健一郎は、焦った様子もなく、涼しげな顔で、
「だめですよ、こんなのを鳴らしては。ご近所迷惑でしょう」
と言って、困った子どもを見るような目で笑う。

 つい、イラっとした。
 時々『カッとなって……』と犯罪について語る犯人がいるが、あの言葉の意味が今ならわかる。
 私は何とか気を静めようと、息を吸って吐くと、

「いや、私が悪いみたいになっているけど、悪いのは健一郎だからね! なにしてたのよ!」
「はじめての朝ですから。記念に数枚。ついでに寝顔も……」

(寝顔だと⁉)

「このド変態! ちょっとそれ貸しなさいよ!」

 私はすぐに健一郎の持つスマホを奪う。
 健一郎のスマホは私と同じ機種なので操作しやすい。手早く写真の一覧を出して、私は青ざめた。

(どうしよう。もう本当にキモチワルイ……!)
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