幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
「私ね、別にいいのよ。健一郎がどこ見てようと。誰が好きだってね」
はっきりと、当たり前のように桐本は言った。
それはそれでどうなんだろう。これからの彼女にとってそれでいいのかは甚だ疑問である。だって、自分が桐本に気持ちを向ける可能性は0だ。
人と気持ちが通じ合うということの喜びを知った今だからこそ、彼女が心配でもあった。
桐本はにこりと笑うと、
「私はあなたみたいに、いつも冷静で才能のある人が好きなの」
と言う。
「僕は全然そんなんじゃないよ」
冷静でもないし、正直、才能があるわけでもない。
もっと言えば、医者でいることだって、ある意味奇跡みたいなものだ。
そんな健一郎を見て、
「自分で自分がわかってないのね」
と桐本は一つため息をついた。
健一郎は分かってない。誰が見ても明白だ。
こんなに冷静で、物事を客観的にみれていて、才能のある医者は他にいない。
(自分は知っている。自分だけは……知っている)
そう、桐本は自負していた。
学会で見かけた女性。健一郎と結婚したあの女。医師でも看護師でもない、普通の女だった。
藤森に無理やり聞いたら、健一郎の地元の病院の令嬢だという。地元の病院って、いくら大きくてもただの病院でしょう? それの院長なんて、健一郎には似合わない。
そんな女に健一郎がいれあげていると聞いて私が、健一郎を正してあげないといけないと思った。健一郎はもっと大学病院や海外の施設で研究もして、その成果が認められてしかるべき人間だ。
そうして、もっと多くの人の命を救える。もっと多くの名誉を得られる。
―――そういう一握りの人間なのだ。