幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
「それでもまだ信じてるって言える?」
「言えるよ。私たち夫婦なんだから」
「でも、政略結婚だろ。相手が実家の病院継ぐために結婚したんだろ」
「……それは」

 たしかに、それが始まりだった。消去法で決めたし、あの時点では誰でもいいと思ってた。

―――私は、本当にそれだけだった?



 真壁くんが突然私の腕を掴む。

「三波が幸せならそれでいいって思ってた。でもそうじゃないなら……」
「ちょ、何言いだしたの! 私は今、十分幸せだって! 健一郎のことも信じてる」

 私がそう言おうとすると、突然、真壁くんが私の身体を強く抱きしめた。
 突然のことに、心臓が痛いほど鳴る。

「俺がなんのために医学部入ったか知ってるのか! 人づてに聞いたんだよ。お前は将来、医者と結婚するのは決まってるって」

 その言葉に、思わず息が詰まった。
 そんなこと、全然知らなかった。初めて聞いた。

(真壁くん、もともと医学部志望だったんじゃないの……? 私のため……?)

 真壁くんは続ける。「そのときもう東宮が医学部に入って研修医になってたろ。なんか悔しくてさ。このまま、ただ目の前で好きな奴さらわれるの、みてられなくて。だから結婚したって知った時は結構ショックだったよ」

 真壁くんを引きはがそうと身をよじっても全く抜け出せない。それどころか腕の力は強まるばかりだ。

「あの時、俺が告白した時。佐伯のことは好きじゃなかったって言ってたよな。本当はどう思ってたんだ」
「昔の話でしょ。いま、そんな話しないで」
「ここじゃないと、お前逃げるだろ! 前だって俺の家に送ってくれた時逃げた!」

 真壁くんの顔は真剣で……私は真壁くんを見つめる。

(ここでごまかしたり、嘘はついたりしたくない。昔の気持ちも、今の気持ちも私は自分で自分のことわかってる)

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