幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、
「ねぇ、三波ちゃん」
と声がかかる。聞き覚えのある声に、つい眉が寄った。

「なんですか」
 振り向いてみると、その声の主はやはり藤森先生だ。

 どうしてこの広い病棟で藤森先生に会うという偶然が続くのだろう。
 どうせなら健一郎だったらいいのに……そう思って、あからさまにため息をついた。


「そんな嫌そうな顔しないでよ。ほら、これ見てよ。よく撮れてる」
 そう言って、藤森先生が笑って私にスマホを見せる。

 なんなんだろう、私がスマホに目をやると、そこに映っていたのは、私と真壁くんが抱き合っている(ように見える)写真だ。
 いや、抱きしめられていたのには変わりないが、あれは……。

 私は思わず、藤森先生の腕を引く。「ちょ、こっち来てください!」
 自販機の陰まで連れ込むと、私は藤森先生を壁際に藤森先生を追い込む。

「さっきの画面出してください」

 もちろん消す気、満々だ。すぐ消去だ。ついでに藤森先生の写真をオールデリートだ。

「え、やだぁ。三波ちゃんってば、大胆!」

 嬉しそうに藤森先生が黄色い声を上げる。
 私は思わず、大きなため息をついた。もう最終手段か。

「殴りますよ」
「ぼ、暴力反対!」

 そう言って、藤森先生は私にスマホを渡した。

「ばっちりPCに保管もしてるから。この画像消しても大丈夫だよ?」
「な、なんなんですか! これは別にやましいことしてたわけじゃないですけど!」

 私は思わず大きな声が出たことに、自分で驚く。
 別にやましくなんてないけど、健一郎に見られて誤解されるのは嫌だ。

「ねぇ、これ、消してほしかったら少し付き合ってよ」
「えぇ……」
「少しだけでいいから」
 藤森先生はやけに食い下がる。「見せたいものがあるんだ」

「なにを?」

 そう言いつつ、私は、藤森先生の言うとおりにすることにした。

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