幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
「わ、私! お皿あらう!」
私は慌ててキッチンのシンクの前に立ち、水を出して食器を洗い始めた。
(健一郎の手なんかでドキドキするはずない! 絶対イライラの間違いだ!)
落ち着け。落ち着け自分。心を落ち着けろ。そうだ、ゆっくり深呼吸して……。
私はお皿を洗いながら、何度も落ち着こうと深呼吸を始めた。
(あぁ……ちょっと、落ち着いてきた)
何度考えても私と健一郎は好き同士で結婚したわけじゃないし、子どもができるようなこともするはずない。健一郎も期待なんてしてるはずない。
大丈夫。健一郎の『三波さんの子どもなら、絶対かわいいと思いますけど』の発言は、ただの一般的な話だ。
別にその話を健一郎に知られても、私と健一郎の間には誓って何もないので、困ることもないのだ。
そして、そう思って私が落ち着きだしたころ、健一郎はというと、ちょうど水の音で私の耳に声が届かないのをいいことに、
「あなたにその気がないのに、無理矢理っていうのもね……。今は『まだ』その時期じゃないと思いますから……」
とつぶやいていた。
「何か言った?」
「いいえ、なんでもありません」
優しく笑う健一郎の顔をみて、なぜだか急に、背中に寒気が走った。