幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
私がそんなことを思って結婚したことを後悔していると、目線の先の方でざわついている人たちが目に入った。私が首を傾げた時、健一郎が私の隣を走りぬけていったのだ。
「健一郎?」
私も嫌な予感がして、健一郎の背中を追いかける。
健一郎は輪の真ん中に横たわっていた女性に駆け寄っていた。倒れているその女性の口からは、浅黒い血が流れだしているのが目に入る。
「三波さん、119番。T大の救命救急センターへ搬送要請してください」
「う、うん」
「慌てないで大丈夫ですから」
「わかってる!」
私だって病院の娘だ。お医者様や看護師さんじゃなくても、急変した患者さんは嫌と言うほど見ている。健一郎は、ありがとうございます、と言うと、女性に処置を始めていた。
救急車が到着して健一郎は、「T大病院の医師の佐伯です。食道静脈瘤の破裂でしょう、一緒に行きます」と服も手も女性の血で真っ赤に染まったまま、救急隊と一緒に乗り込んでいった。私はそれをぼんやりと見送っていた。