幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

「お前さ」
 真壁くんが何か言いかけた時、
「真壁くんじゃないですか」
と聞きなれた声がした。

「健一郎!」
「東宮!」

 健一郎はつかつかと、真壁君くんの前に歩み寄る。
 私は思わず身構えた。変なこと言わないでよ、という意味も込めて、健一郎を睨みつける。

「お久しぶりですね。真壁くん。しかし、指導医にむかって、呼び捨てはいけませんね」
 にこりと健一郎が笑う。

(ちょっと、ちょっと、なんかお局様みたいじゃない。嫌な感じだな!)

 私はさらに、健一郎に対して眉を寄せる。

「消化器内科の指導医って……」
「はい。僕ですよ」
「申し訳ありません……東宮先生」
「そうそう。僕ね、少し前に、名字が『佐伯』に変わったんです。知らなかったですか?」
「佐伯って……」

 真壁くんの目線が私のほうを向く。そして、私はとんでもなく渋い顔をして小さく頷いた。
 何でこんなバカげた結婚を真壁くんに知られなきゃいけないのよ……と変な後悔がその時になって押し寄せてきたのだ。

「うん、そうなの……結婚したの」

 事実なのだけど、自分から人に言うのは本当にいやだ!
 ましてや、昔からあの奇妙な行動の数々をとっていた健一郎を知っている真壁くんに知られるのは、なんだかすごく恥ずかしい。……今から結婚を取り消したいくらいに。

「そうなのか。……でも、どうして結婚報告がそんな嫌そうな顔なんだよ? ふつうもっと照れたり嬉しそうにするもんだろ」

 真壁くんは不思議そうに聞く。
 不思議でしょうね。でも、真壁くんには多少わかるはずだ。

「いろいろあるのよ」

 私は数段低い声でつぶやいた。さすがに健一郎の過去の偉業を知っている真壁くんは、あぁ、とつぶやく。私はそこで味方を得たような気がしてとても心強く感じていた。
< 32 / 227 >

この作品をシェア

pagetop