幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
数秒後、なにも起こらなくて、
「三波さんにはすこし刺激が強すぎましたかね……」
と健一郎の声がする。
ビクビクしながら、ゆっくり目を開けると、そこには少し困ったように笑った健一郎の顔。
(さっきの、なに……? 冗談だった?)
私は何も言えず、ただ、口を金魚みたいにパクパクしていた。
急に、なんなのよ!まだ胸がバクバクする……。冗談でも、これはやってはダメなやつだ。
でも、健一郎はこれまで、こんな冗談を言ったことも、したこともなかった。なのになんで……?
私が何か言葉を探していると、健一郎は私の顔の横に手をつく。
そして、まじめな顔になったかと思うと、
「でも覚えていてくださいよ。あまり、ほかの男性と仲良くして、僕を煽るような真似はしないでください。ただでさえも、三波さんの軽装に、毎日理性が飛びそうになっているんですから」
とはっきりと言った。
(この人、今、何て言った? 理性が飛びそうになってる?)
健一郎から聞くこともないような言葉が出てきて、私は言葉に詰まる。
(それって、まさかそういう意味? いや、違うよね……?)
私は思わず健一郎の目を見た。
しかし、健一郎は、いつものへらへらとした顔ではないままだ。健一郎の顔が急に男の人の顔に見えた。
「け、健一郎。それ、どういう意味……」
私の言葉に応えないまま、健一郎は私の背に手をやる。
すっと背中に直接健一郎の手が入ってきて、全身にゾクゾクと電気が走ったようになった。
「やっ……!? やめて! なにもしないって約束したでしょ!」
私は健一郎を思いっきり押す。
健一郎はその押した力も感じていないように、ただ、押した手すらそっとつかんだ。
「お願いです。もう子どもではないと、少しは知っていてください。不安ですから」
そう言って、健一郎は私の手をそっと離すと、私から離れた。
私は驚きすぎて、その場にへなへなと滑り落ちて座り込む。
「なにそれ……」
健一郎が何を言ってるのかわからない。
これまでの健一郎と、先ほどの健一郎が違いすぎて、健一郎の言っている意味が全く理解できなかった。
―――でも、今……。
間違いなく、私と健一郎の関係の『何か』が変わった……。