幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
9章:政略結婚のなにが悪い
やっと仕事がひと段落したころには夜9時少し前だった。
ちょうどスマホを見ると、5分ほど前に、健一郎から今夜は病院のほうで泊りになるかもしれない、とメールがあった。
「健一郎も遅くなるのか……」
私はつぶやき、少し考える。
確かに、森下先生の言うように、私は健一郎が仕事をしているところを見たことがない。健一郎の研究室は別棟だし、病院はおなじ構内だがここからは少し離れている。なおかつ、こちらから会いに行く間もなく、健一郎が私のそばに近寄ってきていたので、私は自分から健一郎に会いに行くなんてことはなかったのだ。(いや、そうでなくてもきっと自分から会いに行くなんてことはなかっただろうが……)
だから、健一郎が普段、どんなふうに仕事しているかなんて見たこともなかった。
その時、それを思いついたのは、間がさしたからだ。そうでなければ、頭が沸いていたとしか思えない。
(……差し入れでもしてあげようかな)
そんなことを思い、私は大学近くの遅くまでやっているカフェで、テイクアウトのお弁当とコーヒーを買った。
そして、その足で健一郎のいるだろう病棟に歩いていく。
これは、優しさでもなんでもない。
『一応』でも夫婦だから、それだけのことだ。この行為に意味などない。