幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 それが功を奏したのか、いや、むしろ不運だったのか。
 私が個室に入っていると、あとから二人の女性が入ってきたようだ。

 二人は、つかれた、とか、今日は大変だったわ-、とか言っているので、たぶん病棟の看護師だろう。時々、勤務を終えた病棟の看護師を研究棟で見かけるし。

「それにしても、ホント最悪だよね。東宮先生、結婚なんて。狙ってたのに」

 そして話題が東宮先生、つまり、健一郎にそれると、私は思わず息をのんだ。
 看護師さんたちに話題にされているなんて、驚きだ。

(というか、今、最悪って言った? 結婚したことに? 狙ってた……とも聞こえたような……)

「しかも相手、本橋研究室の事務の子でしょ。超フツーの」
 明らかに自分のことを言われていることがわかる。

(フツー……。まぁ、別にいいけどね)

 それにフツーって、よくよく考えたら悪口ではない。いや、むしろほめてる。私はどうやら普通の女らしい。

「知ってる。でも家が大きな病院らしいわよ」
「だから婿入りか。そんなうまみなきゃ、東宮先生があんな子と結婚なんてしないって」
「将来約束されたようなものだもんね」
「でも東宮先生なら、ここで大学教授にでもなれただろうに。惜しいことするわね」
「わかんないわよ。すぐに離婚したりして。結構いるじゃない。婿入りしたのに離婚した先生」
「確かに!」

 女性たちの笑い声がやけに耳につく。私は彼女たちが出ていった少しあと、個室を勢いよく出た。
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