幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

「東宮先生もいないし、気を付けて帰ってね」
「だいじょうぶですよー。ここから家まで徒歩10分ですもん」

 私はふらつく足どりのまま、森下先生と別れた。
 森下先生と飲むのは好きだ。森下先生がいたからはじめての一人暮らしでも寂しくなかったし、仕事にもすぐ慣れた。

 それにしても、期限付きとはいえ、私の一人暮らしをよくあの父と母が許したと思う。
 本橋先生と健一郎と同じ大学で働くという条件付きだったけど、私にとって一人暮らしはあこがれの中のあこがれだった。結婚するまでに一度はやってみたかったことの一つで、そこはどうしてもと、父母に食い下がったのだ。

(やっぱり一人暮らししてみて良かった)

 何事もなく一人暮らしの2年間が過ぎ、そろそろ3年目に入ろうとしていた。危ない事なんて今までなかったし、これからあと少しの一人暮らし生活でももう危ない事なんてないだろう。
 そして来月には、今は顔も知らないお医者様と結婚し、一人暮らしではなくなる……。
 自分で納得していたはずのことだが…最近少しひっかかる。

 テレビドラマや小説の中のように、私だって、一度くらいは胸を締め付けられるくらい相手のことを好きになって、その人と付き合ってみたいのだ。って、そんな相手に心当たりはまったくないけど……。

 そんなことを思うと、またため息が出た。

「はぁ……」
「せっかくいっしょにいるのにため息つかないでよ」

 その時、聞きなれない声がして私は思わず顔を上げた。
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