幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 なのにその日、森下先生とランチに出てみれば、森下先生は鱚のてんぷら定食を頼んでいた。

「鱚……」
「キスがどうかしたの?」
「男の人は、キスってやっぱりしたいものなのでしょうか……」
「佐伯先生ね」

 そうズバリと聞かれて、少し言葉に詰まったけど、小さく頷く。

「私たち、もちろんキスもしてないんですけど……」

 そう言った途端、森下先生は飲んでいたお茶を吹き出した。

「う、嘘でしょう……!」
「本当です」

 ピシリと言うと、森下先生は、信じられないわぁ……と呟いて、心底、同情の眼差しをして遠くを見た。

「だって健一郎は『私が嫌だったら指一本触れない』って最初に約束したし」
「それでも……さすがにそれじゃ佐伯先生が可哀そうよ」
「なんでですか」
「だってやっと好きな子と入籍できて、しかも一緒に住んでるんでしょう。蛇の生殺し状態じゃない。むしろ佐伯先生、神の領域だわ。……実は、本当に神なの?」
「……なんですかそれは」
「だって、佐伯先生も立派な男よ? どう考えても、溜まるでしょう」
「たまるって」
「性欲」
「ぶっ……!」

 次は私がお茶を吹き出した。
 昼間からなんて話をしてるんだ! そうは思うが、キスの話を言い出したのが自分だった……。
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