幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
私が家の近くの地下道に入ったとき、見知らぬ男がそう声をかけてきたのだ。
思わず私は眉を寄せる。
男は長身で、黒い帽子と、パーカーを身にまとっていた。
顔ははっきりとは見えないが、どこかで見たことあるような。ないような……。
「どこかでお会いしたことありました?」
私は思わず目の前の男にそう言う。
すると、男は眉をひそめた。
「今まで付き合ってて、それはないだろ」
「……付き合ってた?」
私、知らない間に誰かとお付き合いしてたのだろうか。
(まさか、妄想がとうとう現実になったのか……?)
自分の記憶を呼び起こしてみるものの、私にはやはり、これまで付き合っていたような人はいない。まして、目の前の男は全くと言っていいほどタイプではなかったし……。
「どなたかと勘違いされているんじゃないですか?」
私は思わずそう言っていた。
すると、男は私の目の前まで突然走ってきて、私の腕を強い力で掴んだ。
強い力で、振りほどけないほど。
「きみと結婚はできないってわかってるよ。だけど、きみは僕に何度も、キスやその先を僕としたいといってきたじゃないか」
「……え?」
そんなこと言ったことないけど。ましてやこの男に……。
しかし、私はふと、その男の顔に行き当たった。
(あぁ、そうか。この人、森下先生とよく飲みに行く店で見かける店員だ)
でも、それがどうしてこんなとこにいて、こんなこと言って、私の腕を掴んでいるのだろう。痛いから振ってみるものの、手を離してくれる気配は全くない。
『キスやその先をしてみたい』ってことだって、それを叫んだことは数知れないけど、確実にこの男に向けてではない。そんなの森下先生だって知ってるし、他の誰がきいても明白なことだ。
意味が分からなさ過ぎて、思わず首を傾げて眉を寄せる。
「君はひどい女だな」
次の瞬間、捕まれた腕にさらに力がこもる。
腕が痛くて引こうとするのだけど、まったく動くことはなかった。男の目を見ると、男は本気で怒ったように私を見ている。
その目を見て、急に怖くなって背筋が冷たくなった。
私はわかったのだ。
―――本物のストーカーってこんな感じだ。