幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
「ちょっとまって!」
男が突然私を抱きしめ、私の身体を地面に押し倒した時、私の身体に恐怖が一気にかけ抜けた。
同じストーカーと言っても、健一郎に感じるものとは違う。
―――『殺されるかもしれない』という類の恐怖。
なんで……
なんでこんなときに、あいつの顔が思い浮かぶんだろう。あいつの顔だけが……。
おかしい。絶対におかしい。
なのに、私はそのとき、あいつの顔しか思い浮かぶことは無かったのだ。
私は大きく息を吸うと、
「どうしてこんな時にいないんだよ! 根っからのストーカーのクセに!」
と叫んだ。「健一郎! 健一郎ってば! 早く来て助けなさいよ‼」
私はとっさに、健一郎の名を呼んでいた。でも、健一郎は現れない。思わずもう一度、健一郎! と叫んでいた。
目の前の男は驚いた顔をした後、誰も来ないことがわかると、くく、と小さく喉を鳴らす。
「誰も来ないみたいだね」
「ふざけないで、健一郎がこんな時に来ないわけない。健一郎はあんたみたいなぽっと出の男と違って、根っからのストーカーなんだから!」
自分でも何を言っているのかわからない。でもやけに自信だけがあった。
これは、間違いなく恋や愛なんて感情ではない。
水戸黄門様が、印籠を出すようなものだ。いや、ちょっと違うかも…。
でも……私は彼の、健一郎の『ストーカー気質』を、心から信頼しているのだ。