幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
私はこれ以上健一郎のことを考えるのが嫌になって、涙を手で拭うと、無理矢理気持ちを落ち着かせようと壁に目をやる。
すると、そこにあったカレンダーが目に入った。
「……そういえば、今日ごみの日だよね。健一郎の部屋のゴミ、私、一緒に出す」
動いていたほうが、気持ちが紛れる。そう思ったからだ。
そして、健一郎の部屋に入ろうとすると、
「あぁっ……! ちょっと待ってください!」
と健一郎が慌てたように私を追ってくる。
その様子に、なんだろう? と首を傾げながらも、健一郎の部屋に入ってみるといろいろなものが目に飛び込んできた。一瞬で今までの重い気持ちがどこかへ飛んでいった……。
まず、写真だ……。
最近のものだろうけど、あふれんばかりの私の写真が壁一面に貼ってある。スマホで撮ったものはデータとして置いておくだけでなく、わざわざ印刷して(時にはポスターサイズに引き伸ばして)こうして飾っていたようだ。
「き、気持ち悪い! なにこれ! って、これ、いつ撮ったの!」
「いつって、隙を見つけてせっせと……」
とっくにその性癖は把握していたので、もう、どうでもいいわ! という気分になったものの、机の上のものだけはさすがに見逃すことができなかった。
それは、美術の教室とかで見るような……手の形の像だった。
(手……? あの手……まったく同じ形をどこかで見たことある。というか毎日見たことある……)
もちろんそれは健一郎の手なんかじゃない。
「こ、これまさか……」
「三波さんと同じ大きさ・同じ形で作ったんです」
なぜかもじもじしながら嬉しそうに健一郎は言った。
(やっぱり私の手……!)
私は頭がクラリとなりながらその手の像をじっくり見た。
た、確かに……その手は私と全く同じ大きさで、指の特長まで同じだ。
考えてみたら、健一郎は昔から手先も異常に器用だった。手先が器用なのにもいろいろな使い道があるようだが、これは間違いなくその才能の使い道を誤っている。絶対やっちゃダメなやつだ。
私がかなり引いているにもかかわらず、健一郎はそれを持ち上げるとそれと手をつなぎ、
「これをこうすると三波さんと手をつないでいるみたいですし、これをこうすると三波さんに触れられているようなんですよ」
と言って頬ずりする。それは本当に、ほんとうに、嬉しそうだった……。
なんだかそれを見ていると、いたたまれない気持ちになった。
私の手の形って……。
(それで勝手に何されているかわかったもんじゃない! 変なことに使ってないでしょうね!)
―――なにかいろいろと大切なものを失っている気がするのは私だけだろうか?
「やだ! こわい! 捨てる!」
「あぁ、だめですよ!」
「本当に! 気持ち悪い!」
私は怒ってそれをゴミ袋の中に放り込んだ。
これ、もとは紙粘土っぽいから、燃えるゴミ……だよね? 実は燃えないゴミ?
いや、そんなのはどっちでもいい。
変態もここまでくるといっそすがすがしい。
『僕の方だけ見て、僕の事だけを考えていてくれませんか?』と言われても、嫌でもそうするしかないくらい、健一郎の変態さとストーカーぶりはとびぬけている……。