幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 そう言った私を見て、健一郎は小さく息を吐くと、手をすっと私に差し出した。
 そして、その手の指で、私の唇をすっとなぞると、さらに胸の鼓動は速くなる。

「っ……」
「僕は三波さんとキスしたいです。何度だって……」

 その仕草と感触と言葉に絆されて、頷きそうになる。
 でも私は、なけなしの理性を振り絞って、下を向き、また首を横に振った。

「やだ」
「そういう強情なところも好きなんで、自分でも困ったものなんですよね……」

 思わず顔を上げて健一郎を見ると、健一郎は困ったような顔で笑っていた。「今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んでください」

 それ以上、健一郎が強引に何かすることはなくて、私はほっとしたのか、がっかりしたのかわからない感情のまま、シャワーを浴びて、自分の部屋のベッドの上に飛び込んだ。そして、自分の胸を掴む。

「だめだ、どうしたんだろう。なんだこれ……」

 その時もまだ、胸の鼓動は強く、速く、鳴り響いていたままだった。
< 88 / 227 >

この作品をシェア

pagetop